イージスシステムについて その1
友人とメッセンジャーで話していて気になったので少し・・・と思ったらすごく長くなったの2つに分割することになりましたw
後半の更新は未定。つーか前半もいい加減に長いなw
んで、何が気になったかというと、軍事に関しては素人の友人と、某アニメをネタにして話していたときのことなのですが、私が「イージスシステム」という表現をすると、「イージスってシステムの名前やったん。イージス艦ていう船があんのかと思ってた」との返事。
まぁ、確かに日本のマスコミが「イージス艦」「イージス艦」ていうの聞いてたらそのように聞こえるかもしれませんね。
ここを見てる人には今更だと思いますが、「イージス艦」は「イージスシステムを搭載した艦船」という程度の意味の俗語であって、どこの国にも「イージス艦」という艦種は存在しません。
アメリカなら「ミサイル駆逐艦」「ミサイル巡洋艦」、日本は「ミサイル護衛艦」、スペインは「ミサイルフリゲート」という従来と同じ艦種で扱っています。
あと、「イージスシステム」というと「高度な防空システムのこと」と思っている人が多いように思うのですが、実際には「艦全体を統括する戦闘システム」のことであって、防空システムのみを指しているわけではありません。つまり、対空対艦対潜作戦を統括する高度な戦闘システム。なのです。
こればっかりはコンバットプルーフと金の問題ですから、登場から20年以上過ぎたとはいえ、イージスシステムを超えるようなシステムが登場してこないのも仕方ないといえば仕方ないです。イージスシステムがポスト冷戦においてはオーバースペック気味であるということも否定はしませんが、イージスシステムが未だに、というか単価が下がってきてようやく、輸出市場で売れるようになってきたことからも、各国の最新の戦闘システムにも引けをとらないものであるということが窺えます。
(スペインの「アルバロ・デ・バサン」級ミサイルフリゲート。戦闘旗を揚げてるのは演習とかじゃなく、インド洋に展開中だから。U.S.Navy)
では、イージスシステムの開発から現在までの歩みを見てみることにしましょう。
イージースシステムの開発が始まったのは1963年とされています。が、当時は西側海軍での対艦ミサイルの評価は低いものでしたから、重点指向である「戦略核」に頭をおさえられていたようです。
状況が一変するのは1967年、第三次中東戦争におけるいわゆる「エイラート事件」です。高い練度を誇るイスラエル海軍の駆逐艦「エイラート」が戦闘配置につき、エジプト海軍のミサイル艇を発見していながら四発の対艦ミサイルの命中を受け撃沈されたことで、アメリカ海軍で対艦ミサイルの危険性がようやく認識されるようになります。急遽、それまでの大型のシステムと異なり、小型艦や汎用艦にも搭載可能なシースパローSAMが作られますが、あまりにも場当たり的でした。結果、「多数機に同時に対応する」従来と異なる防空システムの研究がクローズアップされます。
また、1970年、ソ連が「オケアン演習」において、「多方向から艦艇、及び航空機により同時にミサイル攻撃を行うことで機動艦隊を殲滅する」という飽和攻撃の演習を行ったことも追い風でした。
どうでもいいことですが、アメリカ、日本以外の海軍は、1982年のフォークランド紛争までどうも「航空機による対艦ミサイル攻撃」というのを甘く見ていた感がありますね。長くなるのでここではたらたらと書きませんが。
1972年、SPY-1レーダーの地上試験が始まり、1974年には試験艦に搭載して洋上試験を行い、開発は完了している。
しかし、もともと「空母を守るためのシステム」ですから、原子力空母に随伴できる原子力艦への搭載が前提とされた大型のシステムだったため、搭載艦の予算は難航します。
結局、スプールアンス級駆逐艦の設計を流用することで決着しますが、いくらスプールアンスが将来性を見て大型のかなり余裕の船体を採用したとはいえ、14000t級の原子力艦への搭載が前提だったシステムを搭載するのはかなり無茶でした。
結果、「靴べらを使って無理矢理押し込んだ」と言われる状態になったようで、復原性のあまりの悪さから艦上構造物の設計に同型艦で2度の手直しが入っています。これが「タイコンデロガ」です。
今に至るも、唯一の「フルスペックイージス艦」と言えます。外観的特徴であるSPY-1A/Bパッシブ・フェーズドアレイレーダーの他に、広域警戒用のSPS-49を搭載しているからです。防空艦としては必要な装備と言えますが、タイコンデロガ級以外の全イージスシステム搭載艦はSPY-1のみです。併用が理想だけど、絶対に必要なものでもないから少しでも安くするために削ろう。というのが実際のようです。
20目標を同時に攻撃する能力を持ちながらも、ミサイル発射機の制約(2連装2基)でその能力を大きく制限された初期型タイコンデロガですが、6番艦以降はVLSの搭載でその持てる力を存分に使えるようになります。
タイコンデロガは27隻が竣工しましたが、初期型6隻は順次NRF(海軍予備部隊)に編入されて現役を退いています。
タイコンデロガのみで米海軍の需要を満たすのは予算的に不可能であり、またいつまでも設計の古い艦(もともとがスープースアンス級でその上にイージスシステム載せただけ)を造り続けるわけにもいかず、性能をタイコンデロガの75%で我慢して隻数を増やそうと試みました。
また、それでもどうも隻数が不足するので同盟国にイージス艦を造らせて補おうとしました。が、そもそもシステムだけで従来の駆逐艦が造れてしまうような高価なものですから、買える国は限られていますし、それをまともに扱えるような練度と規模の海軍は限られている上、世界でもずば抜けた性能を誇る戦闘システムを安心して託せる(寝返ったり、アメリカと仲違いしたりしない)親密な同盟国となるともっと限られました。
が、その条件全てをクリアできる国が一つだけ存在しました。かつてアメリカと戦火を交え、完膚無きまでに敗れた後、驚異的な経済成長でアメリカに脅威を感じさせるまでになっていたバブリーなころの日本です。都合のいいことに海上自衛隊はアメリカ海軍の弟分でした。しかも、日米の貿易摩擦をネタにすればイージスシステム輸出に対する障害も低い(米の輸出許可も日本の購入予算も)という思惑もあったと思われます。
(日米イージス艦が揃ってる面白い写真。一番手前が「こんごう」。先行するのはタイコンデロガ級。奥にアーレイバーク級(フライトUと思われる)。他にむらさめ型やキティ・ホークも。U.S.Navy)
これを提案された海上自衛隊は喜んで音頭をとって「ソ連の脅威」などと煽りました。こうして、イージスシステムがアメリカ以外の国に初めて提供されることになります。
さて、しかし、「アーレイバーク」1番艦アーレイバークが竣工した翌年、世界を仰天させるニュースが飛び込んできます。強大を誇ったソビエト連邦の崩壊です。
「ソ連の対艦ミサイルから空母を守る」というイージス艦の存在意義は大きく揺らぐことになり、アーレイバークの建造計画も当初の予定通り。というわけにはいかなくなります。
が、なぜか日本の「こんごう」型4隻は「予算もう通ってるから」という理由で何の検討もされることなく予定通り建造されました。官僚機構の本領発揮ですが、これは後に大きな意味を持つことになります。ケガの功名ですね。もっとも、海自に言わせれば「中国がいるじゃないか」とのことでしょうが、今にいたるも中国海軍が強大を誇ったソ連海軍に追いついた事実は微塵もありませんがwまぁ、アドバンテージを維持することは悪いことだとはいいませんが、ミサイル防衛がなければもっと批判してますよ?w
ソ連崩壊で立場を失ったイージスシステムですが、捨てる神あれば拾う神あり。世の中どう転ぶかわからないものです。
1996年8月31日。それは突然の出来事でした。
日米の「日本海に着弾」という予想を裏切り、日本列島を超えて太平洋に着弾したそれはその後の防衛政策に大きな影響を与えることになります。
後に「テポドンショック」とも言われることになった北朝鮮の弾道ミサイル発射実験です。
日米ともに「日本海着弾」を信じて疑わなかったため、発射実験の兆候は掴んでいたものの、日本海での追尾体制しかとっておらず、正確な着弾点がわからないという結果になりましたが、イージスシステムには朗報がありました。
「こんごう」型3番艦のみょうこうがこのとき発射されたミサイルを探知・追尾していたことです。さきの理由と、当時は弾道ミサイル対応ではなかったので高角度でロストしましたが、何の手も加えていないイージスシステムでも弾道ミサイルの追尾はできる。という実戦での結果を示しました。
ちなみに、北朝鮮の「あれはロケットで衛星云々」の言い訳ですが、ロケットも弾道ミサイルも原理は同じですからあんまり意味はありません。弾頭を積んでるか、衛星を積んでるかの違いです。
(テポドンを実際に探知した「みょうこう」のSPY-1D。舞鶴にて管理人撮影)
「ミサイル防衛の海上プラットフォーム」として俄然注目の的になったイージスシステムは新たな「敵」を見つけたことになります。
冷戦時代からミサイル防衛の研究は、壮大な「スターウォーズ計画」などの名で行われてはいましたが、技術的な問題、そして莫大な費用、なにより「ソ連」という脅威の消滅によって、研究は遅々として進んでいませんでした。
もともと、イージスシステムはその中で「海上の目」であり「海上の防衛手段」だったのですが、研究は滞りがちだったようです。。
日本がミサイル防衛への参加を表明したことと、弾道ミサイルの拡散が後押しとなってミサイル防衛の研究は再び動き出すことになります。「強いアメリカ」の再来を望んでいるとも言えるブッシュ政権の誕生もイージスシステムにとっては大きな後押しとなります。
さて、時代が進めば電子機器は安価になるものですが、それでは時代遅れになりますから、イージスシステムはバージョンアップを続けています。
しかし、それは逆に言うと「性能を落とせば安価にできる」ということでもあります。
機器の進化で小型化の道もついたイージスシステムは、日本以外にも輸出できるようになりました。
まず、スペインが「アルバロ・デ・バサン」4隻を建造します。レーダーこそアーレイバークやこんごうと同じSPY-1Dですが、内部機器は性能を落として小型化をはかっています。「こんごう」では非供与になったSQQ-89対潜戦システムが供与されたのかどうかは手元に資料が無いので不明。
続いて、ノルウェーの「フリチョフ・ナンセン」5隻は搭載レーダーをSPY-1Fとして更なる小型化をはかりました。レーダーも小さくなっているので、探知能力が落ちているようです。
そして、現在、韓国がKDX-3としてアーレイバークをモデルとしたイージス艦の建造を決めています。もう起工されたのかな?設計はロッキード・マーチンで、建造は韓国です。排水量を見る限り、主構造はアルミのようです。韓国近辺の浅い海が活動域だから吃水は小さいほうがいい。っていうのはわかりますけど、じゃあ重たいイージスシステムいらないじゃんwと思うのは私だけ?オランダ・タレス社が提示してた案のほうが浅い海での活動には向いてたと思いますよ。だいたい、KDX-3に搭載されるソナーは結局独アトラス社製でしょ。システムの整合性に問題ないんだろうか?「イルボンのチョッパリが持ってるのにウリヌラが持ってないのはおかしいニダ」っていう考えなんでしょう。しかも曳航ソナー装備するとか。スペースあんのか?まぁ、他国がどれだけ税金無駄にしようと私の知ったこっちゃないですが。
次は再び日本の「あたご(14DDG)」2隻。「たちかぜ」2隻の代艦です。そういえば、一応「こんごう」「あたご」はアーレイバークの姉妹艦ということですけど、海軍作戦部長を3期6年務めた唯一の人物であるアーレイバーク大将というのは、太平洋戦争時の駆逐隊司令で、海上自衛隊創設期に協力を惜しまなかった人物なんだとか。海自に「ターターミサイルシステム」を供与した人でもあるんですよね。何か因縁めいたものを感じます。
ちなみに、「あたご」2隻ではフルスペックイージスシステムが供与されるようです。まぁ、実際にフルスペックかは怪しいもんですが、SQQ-89対潜戦システムも含まれてるので一応は一通りあるということでしょう。
オーストラリアも導入を表明しています。東南アジア・オセアニア圏で最大の海軍(といっても小規模なんですが)なわけですが、最近の東南アジア圏の海軍増強の中で地域大国を維持するには海軍の増強が必要と考えたんでしょう。オーストラリアもフルスッペクじゃないかな?
さて、話は本家アメリカに戻ります。
建造数が見直されたアーレイバークがその後どうなったかですが、ブッシュ政権の誕生と対テロ戦争やらで、結局、現段階での発注済みまでいれて62隻になりました。以後はDD(X)やLCSといった次世代艦の建造が本格化するので、これ以上建造されることはないでしょう。
各国の現段階での最終的なイージス艦保有数は以下の通り。
米海軍が84隻(注:連装発射機搭載のタイコンデロガ5隻は退役、もしくは退役予定としてカウントせず)、海上自衛隊が6隻、スペイン海軍4隻、ノルウェー海軍5隻、韓国海軍3隻、オーストラリア海軍3隻となっています。
韓国海軍はさらに3隻の追加建造を目論んでいるようですが、予算削減で現在の3隻もスケジュール通りに行くとは思われていないのが現状のようです。
海自は残り2隻の「はたかぜ」DDG後継がイージス艦になるのかはまだ不明。一部にはFCS-3の改良型を搭載した艦になるのではないか。との見方も。
今回はイージスシステムの経歴を書きましたが、次回はその技術的な面なんかを見ていきたいと思います。更新時期は未定ですがw
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